本日のマラソンニュース

ニート、ひきこもり、鬱病など、2人1組で完走と社会復帰を目指すマラソンって?
「社会復帰しなければいけない」
「もっと頑張らなければいけない」
そう自分に言い聞かせて、かえって動けなくなってしまったことはありませんか?
今の社会は、「結果」や「生産性」ばかりが重視されがちです。特に心に重荷を抱えている時や、長く社会から離れていると感じている時、その言葉はときに鋭い刃となって自分を傷つけてしまいます。
そんな中、あるユニークなマラソンイベントが注目を集めています。
主催しているのは、空手家の遠藤一さんが代表を務めるNPO法人シゴトノアトリエ。ニート、ひきこもり、鬱病や発達障害など、さまざまな背景を持つ人々が、2人1組で皇居を走るというものです。
なぜ、彼らは「走る」のでしょうか。そして、なぜこのマラソンが多くの人の心に変化をもたらしているのでしょうか。その理由は、私たちが忘れていた「バランスの取り方」に隠されていました。
タイムは計らない。ルールは3つだけ
この「1 for 1 皇居マラソン」には、一般的なマラソン大会とは全く異なる、驚くほどシンプルな3つのルールがあります。
- タイムを気にしない
- 歩いても休んでも良い
- ペアを組んだ2人が同時にゴールする
速さを競うわけでも、体力を鍛えることが目的でもありません。くじ引きで決まった初対面のペアと、ゆっくりと皇居を周回する。ただそれだけです。
参加者の顔ぶれは、社会人からひきこもりの当事者まで実に多様です。共通しているのは、誰もが「誰かとつながるための、小さなきっかけ」を探しているということかもしれません。
「ペースを合わせる」という無意識の優しさ
参加者が口々に語るのは、「心のバランスが取れた」という感想です。
なぜ、ただ走るだけでバランスが整うのでしょうか。その鍵は、ルールにもある「ペアで走る」という行為そのものにあります。
主催者の遠藤さんはこう語ります。
「2人で走っていると、無意識のうちに相手のペースに合わせます。走るのが速い人は、遅い人に合わせてペースを落とす。体が自然と相手を思いやるんです。それがその時の2人にとってのバランスではないでしょうか」
私たちは普段、無意識のうちに「自分はもっと頑張らなきゃ」と自分一人で戦っています。しかし、誰かと隣り合わせで歩幅を合わせる時、私たちは自分勝手にスピードを出すことはできません。
「相手のペースに合わせる」という行為は、自分を縛ることではなく、むしろ「誰かの存在を自分の体で認める」というコミュニケーションなのです。それは言葉よりもずっと雄弁に、安心感を私たちに伝えてくれます。
「頑張れ」と言われない場所が必要だった
鬱病を経験し、自らもひきこもりの期間があったという遠藤さん。彼がこのイベントを始めた理由は、ご自身の痛切な体験に基づいています。
「悩みや病気を抱えている人は、『頑張れ』『応援するよ』という言葉を簡単には信じにくいものです」
誰しも一度は経験があるはずです。落ち込んでいる時に「頑張れ」と言われるのが、どれほど苦しいか。
しかし、このマラソンでは大げさなエールは飛び交いません。「限られた時間だが5km一緒に走った。お互いペースを合わせながら、一緒に頑張った」。その事実だけが、静かに共有される。
言葉で飾られた励ましではなく、「隣に人がいて、一緒に体を動かした」という身体的な体験。その積み重ねが、氷のように固まった心を少しずつ溶かしていくのかもしれません。
誰にとっても「外に出る」のは勇気がいる
参加者の中には、「外面の良いひきこもり」と自称する人もいれば、生き方に迷っていた人もいます。みんなそれぞれ、抱えている重荷は違います。
けれど、走り終えたあとの参加者の表情は、驚くほど晴れやかです。
走りながら世間話をしたり、景色を眺めたり。あるいは、ただ黙々と隣の人と歩く。それだけのことが、社会復帰への大きな一歩になります。
「人間関係の全てが恋人や特定の仲間だけだったけれど、それ以外のつながりを持たなければバランスが崩れると思った」という参加者の言葉には、ハッとさせられます。私たちは、自分を知らない人とのつながりを持つことで、ようやく自分の立ち位置を確認できる生き物なのかもしれません。
最後に:小さな一歩を、誰かと共に
「社会復帰」という言葉を聞くと、どうしても大きな変化を想像してしまいます。就職しなければならない、毎日外に出なければならない……。そんなプレッシャーに潰されそうになったら、まずはこの「マラソン」の考え方を思い出してみてください。
「完璧にできなくていい」
「誰かの歩幅に合わせるだけで、すでに社会とつながっている」
もしあなたが今、外に出るのが怖い、人間関係に疲れてしまったと感じているなら、まずは少しだけ、外の空気を吸いに歩いてみるのはどうでしょうか。
自分一人で走り切る必要はありません。
たまには立ち止まってもいい。誰かのペースに合わせる心地よさを感じてみる。その小さな一歩が、明日のあなたを少しだけ軽くしてくれるはずです。
誰かと隣り合わせで歩くこと。それは、自分自身を信じ直すための、とても静かで、とても温かい方法なのです。





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